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第九話:戦わずして勝つ【会長 草原克豪】

第九話:戦わずして勝つ【会長 草原克豪】

第九話:戦わずして勝つ【会長 草原克豪】

日本は12世紀末から19世紀後半までの700年近くの間、それまでの貴族に代わって武士階級が支配する国でした。ただし他の国々とは違って、日本の支配階級には権力はあっても、富と権威はありませんでした。富をもっていたのは商人たちであり、権威は朝廷にあったからです。そのような国柄を反映して、日本の武士階級の中では、単に武勇を誇るだけでなく、「質実剛健」や「名を惜しみ、恥を知る」を重んじる独特の倫理道徳思想が誕生することになったのです

武士が身につけた武術はもともと相手を倒すための殺法として発展してきたものです。しかし、時代を経るにつれて、武将たちは「戦わずして勝つ」ことを目指すようになりました。和の心を大切にするようになったのです。特に江戸時代になると、武士はもはや戦う戦士ではなく、徳をもって政治を行う行政官としての役割を担うことになったのです。そこから生まれてきたのが、新しい武士道という概念です。今日私たちが武士道という言葉で思い浮かべるのは、主としてこの江戸時代の武士階級に見られた倫理や道徳観を指しています。現代の武道は、かつての武術に近代スポーツの要素を取り入れたものですが、その中にあっても伝統の武士道精神を大事にしているのです。

日本の武術の極意である「戦わずして勝つこと」という考え方は、空手道においても通用します。空手道では、船越先生の空手道二十箇条にある「空手に先手なし」という言葉が広く知られているように、自分から先に攻めることはしません。もともと護身術から発展した武道においては、すべての動作が相手の攻撃を受けて防御することから始まるのです。実際、空手の形の動作はすべて受けの技から始まっていることは、皆さんもすでにお気づきの通りです。その意味でも、空手は殺法ではなく活法であり、平和のための武道なのです。

このことは他の武道でも同じです。たとえば柔道で「精力善用、自他共栄」、合気道で「武は愛なり」を説くのも、そうした考え方の表れと言ってよいのです。

このように日本の武道は、空手道も含めて、単なる技術のみで成り立っているのではありません。現代の武道は、護身面だけでなく、精神面や健康体育面も含めて、より良い生き方を身につけるための実践的な自己研鑽に励む文化を形成しているのです。グローバル化する世界の中にあって今日の日本に求められているのは、この「武道文化」という概念を大事にし、その真髄を広く世界に発信していくことだと思います。日本空手協会はそのために重要な役割を果たしていかなければならないのです。

公益社団法人日本空手協会は内閣府認定の公益法人として品格ある青少年育成につとめております。
当会主催の全国大会には、内閣総理大臣杯、及び文部科学大臣杯が授与されております。